この記事は、2019年12月17日に配信されたデジクリの記事を転載し、少し修正したものです。

http://bn.dgcr.com/archives/20191217110100.html

先日ニュースなどで少し話題になった「若い人の読解力低下」について私なりの考えを述べてみたいと思います。 今月の初め、経済協力開発機構(OECD)が2018年に実施した「国際学力到達調査(PISA)」の結果の中で、日本人の読解力が15位に落ちた(2015年調査時8位)、若い日本人の読解力が低下している、ということがニュースで取り上げられました。 読解力が低下して大きな理由は「本を読むことが少なくなり、SNSなどでの短い文章でやりとりが増えたため」と考えられているそうです。

PISAの調査結果や文部科学省のサイトに公開されていますし、読解力の問題例が国立教育政策研究所のサイトで公開されています。 若い人の読解力の低下を嘆く前に、調査で用いられた実際の問題を見てください。

問題例については、こちらからPDFでダウンロードできます。

問題の内容は、ラパヌイ島という島でフィールドワークを行ったある大学教授が書いたブログを読んで設問に答えるというものです。 ぜひ一度やってみてください、そして解答するのにどれぐらい時間がかかったかを計ってみてください。

おそらく、多くの方はほぼ正解されると思います。一方でこの問題の難しさも感じていただけるのではないでしょうか?

読解力とは?

そもそも読解力とはどういう能力なのでしょう? シンプルに考えれば「文章の構造や係受けの関係性を読み取って、文意を理解すること」ということだと思います。しかし実際に問題を読んでみると、問題を解くのにはそれ以外の力が必要だと知ることができます。

まず、文章の中に出てくる単語の意味を把握しなければなりませんし(さらにいうとその単語に使われている文字が読めなければならない)、それらを一時的に記憶する記憶力も必要です。

そこから、それぞれの単語の関係性(構造)を理解してようやく文意を読み取ることができます。さらに、設問が何を求めているのかについても同じように理解し、設問が求めているものと与えられた文章の意味を照合してようやく答えにたどり着きます。

この時、文章に出てくる単語が自分の知らないもの、はじめて見るものだった時は、それぞれの単語を記憶するだけでもかなり大変です。

わかりやすい例として、次の記事に出てくる「アミラーゼ問題」をご覧ください。

記事から問題の部分を引用します。

次の文を読みなさい。 アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。 セルロースは( )と形が違う。 (1)デンプン (2)アミラーゼ (3)グルコース (4)酵素

この文章の中には「アミラーゼ」「グルコース」「セルロース」という見慣れない3つの単語がでてきます。しかも、それぞれの単語はいずれも「○○○ー○」と同じ構造を持っているため、これらの単語がどういうものかをわかっていなければ、どの単語がどのタイミングで出てきたのかを混同しやすいのではないでしょうか。

すくなくとも、私はこの3つを初見できちんと分類して把握できませんでした。この短い文章を何度も読み返さなければ正解に辿りつくことができませんでした。

みなさんはいかがでしょう?この文章を1回で理解して設問に答えることができたでしょうか?ちなみに、正解は1のデンプンです。

ここでもう一度、PISAの「ラパヌイ島問題」を読み返してみてください。 「アミラーゼ問題」ほどではないものの、覚えにくいな、あまり馴染みがないと感じる単語があったのではないでしょうか。

このように問題を解くプロセスを分解していくと、正解にたどり着くためのハードルはひとつではないことがわかります。

テストという非日常

もうひとつ理解しておいていただきたいのは、これらの問題がテストとして行われているということです。これらの問題を限られた時間で解かなければならないのです。

時間が迫っていると焦ってしまって余計に頭に入らなくなる、テストの時にそんな経験を多くの人がしているのではないでしょうか? 時間の制約を受けずに、他の問題のことも考えずにひとつの問題に集中できる私たちと、実際にこのテストを受けた学生さんたちとでは大きく状況が違います。

これは、あくまでも非日常の世界での話なのです。

これらのことから「ラパヌイ島問題」にしても「アミラーゼ問題」にしても、この問題が出来なかったから読解力が低いと判断されるべきなのか?というところに私は疑問を感じます。

おそらく、教育分野の意味においては「読解力が低い」と判断されるのかもしれません。しかし、これらの問題を間違ったとしても実生活では困ることがありません。

それはこれらの問題が実生活と関係のない内容だからではなく、実生活であれば時間をかけて理解したり、言葉の意味をもっと深く調べてより理解してから改めて文意を読み解くということができるからです。

テスト問題で与えられた情報だけで文意を理解することを、実生活では強制されないのですから。

分かりにくい文章を読み解く力よりも分かりやすい文章を書く力

若い人の読解力低下については、PISAの調査結果よりも前に「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」という本で話題になっていました。

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

この本を書いた方と先ほどの「アミラーゼ問題」の記事を書いた方は同一人物で、東大合格を目指すAI「東ロボくん」の開発に関わっておられます。この方によると学生の読解力はAIにも劣っていて、もっと読解力を鍛える必要があるそうです。

しかし、私はそうは思わない。

そりゃ、テスト問題に出てくるような難解な文章を理解できるようになれば、日常生活のもっと平易な文章は難なく理解できるようになるでしょう。でも、それはきっとオーバースペックってやつです。そこまでできなくても普通に生活を送ることができます。

そんな時間があったら、分かりやすい文章を書く力を鍛える方に時間を割いた方がよほど有用です。そして、分かりやすい文章を書く力を鍛えることによって、文章の構造を理解する力も上がると思います。

分かりにくい文章を読み解く力よりも分かりやすい文章を書く力を身に着けた方が、周りの人も幸せにできると思いませんか?

人間はAIと戦う必要なんかない

AIにできることが人間にできないのは人間の能力が劣っているからだと言われることにも反対です。AIの方がうまくできるならAIにやらせればいいのです、人間がそこに戦いを挑む必要はない。

人間はコンピューターと違って色々な感情を持っています。 大して面白くもなく、関心も無い「アミラーゼ」とか「ラパヌイ島」の話を無理やり読まされるの辛いじゃないですか。

でも、コンピューターはそんなこと思わないのですよ、それが「アミラーゼ」だろうが「ラパヌイ島」だろうが、淡々とこなしていくだけです。 ここが人間とコンピューターの違いです、だからテストでは人間よりもAI(コンピューター)の方が有利なんです。この土俵で人間がAIに戦いを挑む必要なんてまったくないと私は思います。

分かりやすい文章を書いてもっと優しい世の中に

色んなことを書きましたが、じゃ日本人の読解力は下がっていないのか?というと、それはまた別の話だとも思っています。確かに、最近の若い人が本を読まないというのは私自身も感じていますし、実際に世界ランクが下がっていることを考えれば下がっているのかもしれません。

でも、こんなテストでそれが測れているのだろうか?ということについては疑問だということです。

それよりもやっぱり分かりやすい文章を書く力をつける方向で頑張りましょう。きっとその方がみんな幸せになれると思います。僕らはテストを受けるために生きているんじゃないんです。

みなさんは、NEWS WEB EASYというニュースサイトがあるのをご存知ですか? これは、小学生・中学生の皆さんや日本に住んでいる外国人のみなさんに、わかりやすい言葉でニュースを伝えるウェブサイトです。

平易な日本語で書かれたニュースサイトで、外国人や小中学生に分かりやすい言葉で伝えるように作られたニュースサイトだそうです。

これが標準でもいいんじゃないのかな?このwebサイトは外国人や小中学生だけでなく、発達障害と呼ばれる状態にある方にも有用だと思います。

難しいことに挑戦することも必要ですが、難しいことを簡単にしていくことはもっと必要とされているのです。