変更と修正の適切な使い分け

よりよいモノづくりのためには、作り手の中での対話も重要。ここがいい加減だと、使い手不在のモノづくりになってしまうことがよくあります。

私自身は、仕事を「委託先」にお願いする「発注元」として働いた期間が長いのですが、「委託先」との対話の中で「変更」と「修正」のふたつの言葉の使い分けを、特に意識していました。

「変更」とは、着手時に合意した内容を変えること。「仕様変更」と呼ばれるように、目的の仕様を変更することがほとんどです。 「修正」とは、着手時に合意した内容に沿うように制作物を変えること。ソフトウェアのバグの修正はもちろん、デザインの調整など範囲は様々。

「変更」は、「発注元」の都合であることがほとんどですが、中には「委託先」が提案したものを撤回する、といったケースもあります。 「修正」は、不具合のように「委託先」の責任が明確なものもありますが、曖昧な仕様のまま進んだものについては、「発注元」にも責任があります。


切り分けの難しい「変更」と「修正」なのですが、「発注元」からは十把一絡げ(じっぱひとからげ)に「修正」と表現されることがよくあります。

しかし、実際に作業をする立場の人間としては、このふたつの違いはとても大きい。明らかに「発注元」の都合なのに「修正」と言われるとカチンと来ます。

このように、何もかも「修正」と表現する方には、次のふたつのタイプがあります。

前者は問題外として、後者は困ったものです。言葉尻を変えたって、事実は変わらないのですから。

当事者であればお互いに、「変更」を押しつけた、押しつけられた、ということは分かっているわけです。

「変更」を押し付けられた方は、モチベーションが上がらず、仕事のクォリティは下がるのみ。押し付けた方も、クォリティの高い仕事をしてもらえないけれど、後ろめたさがあるので強くは言えない。

そうして出来上がったモノは妥協の産物で、割を食うのは使い手の方々。こうして「使い手不在のモノづくり」が進むわけです。


私の経験では、この使い分けをきちんとすれば、両者は良好な関係を保てます。実際の製作をする側の人間としても、良いものを作りたいと思っているわけです。こちらが責任をきちんと認めれば、相手も自分の不備の部分は認めて義務を果たしてくれる。

責任の所在が曖昧なものについても、普段から良好な関係を保っていれば、すんなり解決することも多いものです。勝手な言い分かもしれませんが、少なくとも私自身の経験ではそうであったと確信しています。

近頃は、とにかく「委託先」に押しつける風潮が蔓延している気がしてなりません。厚顔の中年ならいざしらず、30前後の若い人にも多々見られます。

モノづくりの現場はとてもデリケート。

特に「発注元」の方々には、この使い分けをきちんと貫き通す仕事をひとつして、良好な関係での仕事が、どんなにいいものなのかを経験していただきたい、と心から願うばかりです。

変更か修正か