モードを意識させないインターフェース

操作するためのモノの形や画面などの「ユーザーインターフェース」は、作り手と使い手が対話する最前線。ITが気軽に使えるものに、人にやさしいものになるためには、「操作性」がとても重要です。

「操作の分かりやすさ」「操作することの楽しさ」に注目され始めたきっかけのひとつに、iPhoneの登場がありました。 そのiPhoneでも採用された操作方法のひとつで、今でもタッチ操作の代名詞のひとつとして、デモなどでよく使われているものに「ピンチイン/ピンチアウト」があります。

「ピンチ」とは「つまむ」という意味で、「ピンチイン/ピンチアウト」とは、画面の上で何かをつまむように人差し指と親指を置き、広げると表示が拡大し、つまむと縮小する操作のことで、地図やブラウザでよく使われます。 名前は知らなくてもその操作方法を知っている、見たことがある方は多いと思います。

「操作とそれに対応する動作の対応が分かりやすい」ことが、「優れた操作性」の条件のひとつにあるのですが、指を狭めると画面上の表示が小さくなり、広げると大きくなるという動作が、利用者の感覚にフィットしていることが指の動きに対する画面の動きが一致していることから、「直感的」で分かりやすい操作方法として知られています。

ピンチイン/ピンチアウトが良い操作方法である理由は、もうひとつあります。 ピンチイン/ピンチアウト操作が可能なアプリは、指一本で操作した時に画面の移動操作になるものがほとんどです。

つまり、指一本なら画面移動、二本なら拡大縮小と、ふたつのモードを指の使い方を変えるだけで切り替えられている、これがもうひとつの理由です。

モードを使い分ける操作

ひとつの機器に多数の機能を搭載した今のIT機器には、多くのモードが存在しています。 つまり、IT機器を使いこなすというのは、複数のモードを使いこなすということに等しく、モードを使い分ける操作の提供方法には次のふたつの方法が考えられます。

どちらの考え方を採用したとしても、操作しやすい方法を実現するのはかなり困難です。

モードを意識させない操作

ピンチイン/ピンチアウト操作の場合、一本指と二本指の使い分けでモードを切り換えている、と考えれば1のタイプと言えます。 一方で、一本指操作に移動を割り当て、二本指操作に拡大縮小を割り当てられているとも考えられ、2のタイプとも言えます。

どちらのタイプとも言えるのですが、いずれにせよ指の使い方だけで自然な使い分けを実現しているため、利用者にモード切替の負担を感じさせない、それどころか操作して楽しい、優れた操作方法である。これが、ピンチイン/ピンチアウトが優れた操作方法である、もうひとつの理由です。

出来上がったものを見てあれこれ言うのは簡単ですが、発想するのも、使えるものにするのも大変、エンジニアもデザイナーも相当な苦労があったはず。 こんな努力のひとつひとつが、作り手のメッセージ。こういう良い対話が進めば、ITはもっと人にやさしいものになるはずです。

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