人に伝えるデザインを考える

今、IT人材が不足していると言われる一方で、就職活動している学生さんからは「文系なのでIT系の仕事は無理」と考えている様子が見受けられます。 もちろん情報や工学系の勉強をしてきた人に比べると技術的なスキルは劣るかもしれませんが、IT系の仕事には技術的なスキルが求められるものばかりではありません。技術的な勉強はしてこなかったけれど、ITに関わる仕事をしてみたい、そういう方には情報を伝えるためのデザインをを作る仕事を目指して欲しいなと思います。

たとえば、アンケートで設問に対して「はい」か「いいえ」で答える項目を作る場合、どのような入力方法を用いるのが良いかを考えてみましょう。回答を選択する方法としては、ラジオボタン、チェックボックス、プルダウンメニューがあります。

ラジオボタンを使うと下の図のように複数の選択肢の中からひとつを選ばせることができます。 1が選択前の状態で「はい」と「いいえ」のいずれも選択されていません。2は「はい」を選択した状態で3は「いいえ」を選択した状態です。

  1. ○ はい  ○ いいえ
  2. ● はい  ○ いいえ
  3. ○ はい  ● いいえ

2の時に「いいえ」を選択すると3の状態になり、4の時に「はい」を選択すると2の状態になりますが、一度2もしくは3の状態になると1の状態(選択前)に戻すことはできません、これがラジオボタンの動作です。

ではチェックボックスはどうでしょう?チェックボックスの場合、ラジオボタンと異なるのは同時に複数の選択肢を選ぶことができる点です。 つまり、以下のケースが考えられます。

  1. □ はい  □ いいえ
  2. ■ はい  □ いいえ
  3. □ はい  ■ いいえ
  4. ■ はい  ■ いいえ

回答は「はい」か「いいえ」のいずれかで答えて欲しいのですから、どちらも選択できるというのは困ります。では、この設問に対する回答方法としてチェックボックスは使えないのでしょうか? そんなこともありません。選択肢として、「はい」のみを提供しチェックが入っていれば「はい」の回答、入っていなければ「いいえ」とみなすことができます。

  1. □ はい → 選択されていないので「いいえ」
  2. ■ はい

ラジオボタンとチェックボックスには、わずかな違いがあります。ラジオボタンで入力する場合は必ず回答者に自分の意思で「はい」か「いいえ」を選ばせることができるのに対し、チェックボックスの場合は回答者が自分の意思で選ばなかったのか、それとも回答項目を見落として選ばなかったのかの違いを区別できません。回答者の意思を確認する必要のある場合はラジオボタンを使うべきです。 一方、チェックボックスの特性を使って「はい」「いいえ」を確認するようなケースとしては「メールの配信許諾」があります。

□ メールの配信を希望する

この場合、チェックを入れると「配信を希望する」となり、チェックを入れなければ「配信を希望しない」となりますので、デフォルトの選択肢を与えることができます。もちろん、ラジオボタンでも

メールの配信を希望する ○ はい  ● いいえ

このように選択肢にデフォルトを設定すれば、同じ効果を得ることはできます。しかし、チェックボックスであれば文字数が少なく、よりシンプルにできるのでチェックボックスが向いていると言えます。

もうひとつの方法、プルダウンメニューを使った場合の動作はラジオボタンに似ていて、「はい」と「いいえ」の選択肢を設け、いずれかひとつを選択させる形になります。

メニュー
はい
いいえ

デフォルトを与えたくない場合、回答者に必ず自分の意思で選択させたい場合は、未選択を表す選択肢を追加し、デフォルトを「未選択」とします。

メニュー
未選択
はい
いいえ

最後にもうひとつ「この設問への回答自体が任意の場合」だった場合を考えてみましょう。 回答自体が任意なので「未選択」という状態のまま回答提出があり得るということになります。ここまでの例で、これが可能なのは、ラジオボタンかプルダウンメニューということになりますね。チェックボックスでは二者択一に対して「未選択」という状態を提供できません。

このように「はい」か「いいえ」の選択方法ひとつを考えるだけでも多くの条件やシチュエーションを考えて選択方法を決めなければならないことはわかっていただけたのではないでしょうか。 そして、ここまでの中に「文系にはわからない」要素はひとつもないことに気づいていただいて、私が「文系でもITの仕事はできる」と考えるわけを理解していただければ嬉しいです。

機械にしてもwebサービスにしてもその向こう側には必ず人がいます。人と繋がらない機械、サービスというのはありえません。

人に優しいITを生み出すためには、理系の頭だけでは無理なのです。ぜひ、ひとりでも多くの人が人に優しいITを生み出すために力を貸していただければ、今の世の中はもっと良くなると信じています。