「使いやすい」を生み出すための工夫

モノづくりに関わる人なら、誰しも使いやすいものを世に送り出したいと考えるでしょう、「これは、使いやすいね」と言われたいものです。

では、「使いやすい」と感じるモノとはどういうモノなのでしょうか?人の感じ方というのは千差万別ですから、「これが正解」と言えるものを生み出すのは難しい。

ましてや世の中には、様々な機能や目的の機械がありますから、すべての機械で「使いやすい」を実現できる万能なアイデアというものは存在しません。

では、まったくヒントが無いものか?というとそんなこともありません。

人が機械を使った時に「使いやすい」と感じさせる要素として「期待通りに動作する」ということがあります。

このように、操作に対する結果が予測でき、その結果が自分の予測通りだった時に人は安心感と達成感を感じることができます。そして「自分は、この機械をコントロールできている」と感じられた時に「使いやすい」と感じるものなのです。

逆に操作した結果が予測できないものに対しては不安を感じ、使いやすいと感じられることはありません。

たとえば、オンラインショップで買い物をした時、どの操作で注文や支払いが完了するのかがわからなくて不安に感じた経験はないでしょうか?オンラインショップの場合、物品の購入を伴うため特に影響が大きいものと思われますが、機器の操作の場合も同様で「このボタンを押したら何が起こるんだろうか?」では、安心して操作することができないのです。

操作に対する結果が予測できるようにするためには、以下のような方法があります。

  1. 従来採用されているものと同じ操作性を継承する。
  2. 他の機器で採用されている、操作方法を導入する。
  3. 操作方法とその結果を文字で案内する。

1と2については、既に経験済み(学習済み)なので、容易に理解できるというわけです。

たとえば、パソコンのボリュームを変えるための、つまみを上下もしくは左右にスライドさせる操作方法は、オーディオ機器から踏襲したもので、過去に経験があるため容易に理解できます。3については、ユーザーインターフェースによる解決とは言い難いので、ここでは触れないものとします。

一方で、過去の経験だけに頼っていては、まったく新しい機能性や操作性を実現することができません。 過去の経験も時代によって変わっていきます。「プッシュ式ダイアル」しか知らない今の子どもたちに「回転式ダイアル」の操作方法を採用した機器を与えたところで、すぐには理解できないでしょう。 やはり、過去に経験のない新しい操作方法を作り出していくことも必要で、その場合にも「操作方法とその結果を予測できる」ように配慮することが重要になります。

新しい操作方法でありながら、「操作方法とその結果を予測させる」ことに成功した例として、iPhoneの「スライドでロック解除」操作があります。 iPhoneが初めて発表された時、それまでにもタッチパネルで操作する機械は存在しました。 しかし、それまでのタッチ操作が「押す」操作が中心であったのに対して、iPhoneは「スワイプ」や「フリック」のように画面を押しながら動かす操作が採用され、これらの操作方法は一般の利用者に広く知られたものではありませんでした。

つまり、「どんな操作方法で、どんな結果が得られるのか」が予想しにくいものだったのですが、iPhoneの起動画面に「スライドでロック解除」を採用することで、これを解消することに成功しました。

これは、2007年にiPhoneが発表された時の様子でもうかがい知ることができます。 当時、iPhone発表のデモをSteve Jobsが行った際、最初の「スライドでロック解除」の操作だけで歓声が上がり、同じ操作をもう一度繰り返すほどの反響がありました。つまり、会場に居た人たちはこの瞬間にiPhoneがどのように操作できるものなのかをイメージすることができ、その後のデモにおけるひとつひとつの操作を、まるで以前から知っていたかのように受け入れることができたのです。

一言で言えば、使い手に学習させているということです。 その学習コストが低ければ低いほど、利用者は学習させられていることに気づかず「私はこの機械をコントロールできている」「この機械は使いやすい」と感じるように誘導しているだけなのですね。

新しい機械、新しい操作方法を利用者に「使いやすい」と感じさせることは不可能ではありません。 ただし、作り手にとって、それは決して「簡単」ではありませんが。